よんログ

5Gは我々の生活を変えない

執筆時点 (2022/08) で、日本で5Gの運用が開始されて2年半が経過しようとしている。 5Gは本当に我々の生活を変えるのだろうか。 私の結論は「5Gは生活を (大きく) 変えない」だ。その根拠を次に述べる。

波の回折原理

搬送波が高周波になるとき、まず考えて欲しいのは波の回折原理である。 波はその周波数が大きくなるほど障害物を回折するときの減衰量が大きくなる。 (高周波、つまり振動数が大きい波ほど障害物に反射して減衰する回数が増えるイメージ)

よって、1つの基地局でカバーできる範囲円の半径は搬送波が高周波になるほど小さくなる。 つまり、同じサービス提供エリアを維持するのにより多くの基地局を要する。 現在も5Gの提供はユーザー数が多い都心部などの局所的なものに留まっている。

バックボーンの問題

4Gや5Gなどのモバイル通信技術はあくまで端末と基地局間の話に過ぎない。 基地局の向こう側は従来の有線通信だ。

家庭用の有線通信サービスには既に理論値1Gbps (125MB/s) のサービスが存在する。 しかし、現実で125MB/sの帯域をフルに使い続けると、まずプロバイダから規制を食らう。 1Gbpsとはあくまで最大通信速度の理論値であり、各ユーザーに割り当てる帯域はプロバイダに委ねられている。 (家庭用インターネット契約がベストエフォート型と呼ばれる所以である)

一般的にプロバイダは回線事業者からバックボーンの利用権を購入し、その帯域をユーザーに割り当てる。 そのため、バックボーンが通信速度のボトルネックになっている場合、バックボーンの増強なしに通信速度が速くなることはない。 これは無線通信事業者においても同様である。

通信のディレイ (遅延) についても同じことが言える。 有線通信技術は既に光速に近い速度を達成しており、今存在しているディレイの大部分はルーティングや輻輳制御によるものである。 これは無線通信技術が問題解決する領域ではないため、従来の有線通信で不可能だったことが5Gで可能になることはない。

光速とオンラインゲームのラグ

光は1秒間に地球を7周半という驚異的な速さを誇るが、日本とブラジル間の通信時間は最低理論値でも66msかかる。 これはティックレート60Hzのオンラインゲーム換算で4フレームに相当する。 これに加えて、ルーティングや輻輳によるラグが加算されるため、光速を以てしてもオンラインゲームの完全同期通信は不可能である。

そのような制約下でPvPのようなプレイヤー同士の優劣が対立するゲームを成立させるための様々な工夫が既に存在する。

詳細: オンラインゲームでは、お互いの位置がだいぶ離れていても (日本とブラジルくらい) 何故素早く同期できるのですか?どのように通信しているのでしょうか? - Quora