近年、新規に販売される技術書には必ずと言っていいほど電子書籍版が用意されるようになった。
しかし、電子書籍というデジタル資産が、購入した電子書籍のプラットフォームによってロックインされることには抵抗がある。 以下のような懸念を抱いたことはないだろうか。
Kindleに関して言えば、後者の懸念は現実となった。 Kindleアプリの初回リリースから11年が経ったが、リーダーアプリの品質は低く、ソフトウェアの品質改善プロセスがまともに機能しているとは思えない。 また、Linuxではリーダーアプリが対応していないため、Linuxでは読めない書籍も多い。 購入した 武内 覚 著 試して理解 Linuxのしくみ (略) のKindle版がLinuxで読めなかったことには驚愕した。
かくして私は、特定のプラットフォームにロックインされないDRMフリーの電子書籍を求めるようになった。
メジャーな電子書籍のファイル形式には PDF と EPUB の2種類がある。
固定レイアウトであり、画像データが主体であることが多い。 ほとんどの固定レイアウトの電子書籍はタブレット向けにレイアウトされているため、スマホだと読みづらい。
HTMLをベースとしたフローレイアウトであり、テキストデータが主体であることが多い。
テキストデータが主体であることのメリットは、端末の画面サイズによって書籍のコンテンツがリフローされることだ。 また、電子書籍リーダーが対応していれば文字サイズや行間を変えたり、テキストのハイライトやテキスト検索を行うことができる。
一部の高度なリーダアプリでは、画像データとして埋め込まれたテキストをOCRでテキストデータに変換し、ハイライトやテキスト検索を行えるようにする機能をもつものもある。
DRMフリーの電子書籍を入手する方法には、以下の3つがある。
DRMフリーの電子書籍ファイルを公式ストアで提供している出版社も存在する。
ストア | 出版社 | ファイル形式 | 備考 |
---|---|---|---|
Gihyo Digital Publishing | 技術評論社 | PDF, EPUB | WEB+DB PRESS シリーズや 〜を支える技術 シリーズの出版社公式。 |
インプレスブックス | impress | PDF, EPUB | impress top gear シリーズや資格試験対策本 徹底攻略 シリーズの出版社公式。 |
マイナビBOOKS | マイナビ出版 | PDF, EPUB | 徹底入門 シリーズの出版社公式。IT・コンピュータ関連以外の電子書籍も多数。 |
Manatee | 様々 | PDF, EPUB | マイナビBOOKSと同じくマイナビが運営するストアで、技術書が多数。AWS認定アソシエイト3資格対策などを出版するリックテレコム社も参画。 |
O'Reilly Japan Ebook Store | O'Reilly Japan | PDF, EPUB | 言うまでもないO'Reilly本の出版社公式。 |
SEshop | 翔泳社 | ||
達人出版会 | 達人出版会 | PDF, EPUB | |
BOOTH | 様々 | 様々 | 技術書典で売られた技術書の電子版が多数。 |
impress社の資格試験対策本「徹底攻略シリーズ」は物理本を購入すると、PDF版の電子書籍を貰える。 スマホで電子書籍を持ち歩いてスキマ時間で勉強して、その後に物理本で見直しという勉強方法ができる。 オススメ。
自炊とは、物理本を裁断したものをスキャナでデータ化し電子書籍化することだ。 読みたい本の電子書籍版がそもそも存在しない場合に有力の手段である。
電子書籍版が存在しない良著として、C.M.ビショップ著 パターン認識と機械学習 (日本語版) がある。
当たり前だが、物理本を購入して、それを裁断しなければならないというデメリットがある。 また、数百ページを手動でスキャンすることもかなりの手間を要する。
自炊を代行するサービスもいくつか存在するが、この場合は本の購入者と複製者が異なるため、著作物の私的利用の範囲を超えてしまう。 つまり違法である。
2012年の改正著作権法により、私的利用を含むDRM解除 (技術的保護手段の回避) も違法となった。 以下の情報は実践を推奨するものではないことを明記しておく。
DeDRM_tools は Calibre のプラグインとして動作し、Kindle や Adobe Digital Editions の電子書籍ファイルのDRMを解除することができる。
この手のツールはDRMを提供する側とのイタチごっこを常に迫られているため、短期間でツールの仕様が変わってしまうことも多い。 よって、DeDRMの使い方を説明する日本語サイトも数多く存在するが、それらのほとんどは役に立たないと推測する。
何かうまくいかないことがあれば、DeDRMの公式Wikiを参照したほうがよい。
入手したDRMフリーの電子書籍ファイルを自分のスマートフォンやタブレットに配信し、読める状態にする方法を考える。
Kindleには、メールで添付した PDF or MOBI 形式の電子書籍ファイルを自分のKindleライブラリに送る Send to Kindle というサービスがある。
しかし、Gmailから送信する添付ファイルには 25MB の容量制限があり、Send to Kindle自体も 50MB の容量制限を設けている。 よって、固定レイアウトの電子書籍のような画像データを主体とする書籍の配信は厳しい。
参考: Send to Kindle Eメールアドレスの使用方法
2022/05/04追記
Send to Kindleは2022年後半にEPUB形式を新たにサポートすることを発表した。
サーバー・クライアント形式で電子書籍を配信するためのフィード形式に OPDS がある。
O'Reilly Japanは書誌情報をOPDSカタログ形式で配信している。 これを登録することで、OPDSカタログ形式に対応する電子書籍リーダーアプリからO'Reilly本の情報を参照したり、試し読みをしたりできる。
オープンソースの有名な電子書籍のライブラリ管理 &
リーダーアプリであり、Calibreデータベースの書籍を配信するWeb
UIとOPDSサーバーを備える calibre-server
を同梱している。 Web
UIは読込み機能のみに特化しており、書籍のアップロードやメタデータの編集、削除は行えない。
前項で説明したCalibreの多くの機能をWebで再実装したもので、Web
UIとOPDSサーバーの両方の機能を備える。 Calibre同様、本の表紙やメタデータを
Amazon.com や Google Play
Books, Comic
Vine から補完することもできる。
また、Calibre同梱のツール ( ebook-convert
)
を利用することで、電子書籍のファイル形式をWeb UIから変換することができる。
ただし、CalibreデータベースをCalibreで予め作成しておく必要がある。
自分はiOS端末しかもっていないため、OPDSに対応したiOSクライアントアプリを列挙する。
非常に多くのファイル形式 (PDF, EPUB, CBR, CBZ, 他多数) に対応し、一度限りの $5 の課金でiCloud Driveを利用した同期機能や、広告の非表示が可能になる。 リーダーのUIが小さく分かりづらいことと、OPDSからダウンロードした電子書籍のメタデータをOPDSではなくファイルから取得してしまうことが難点である。 しかし、以下を含めて紹介する3つの中で、機能やコスパ, アップデートの頻度で他を圧倒する。 執筆時点 (2022/04/06) で最終更新日は 2022/01/23.
PDF, EPUB の他に、コミック形式である CBR, CBT, CBZ など数多くのファイル形式に対応する。 より高度な機能を使用するには、アプリ内課金でProモードを購入しなければならない。 また、複数の端末間でメタデータや最後に読んだページ, ブックマークやハイライトを同期するPremiumサブスクリプション (月額課金) もある。 執筆時点 (2022/03/03) で最終更新日は 2019/02/04.
無料で洗練されたデザインが特徴だが、PDFに対応していない。 執筆時点 (2022/03/03) で最終更新日は 2017/10/11.