よんログ

未経験採用のジレンマ

未経験採用には大きなジレンマがある。

会社は人件費を抑えるために未経験を採用する。 採用された社員は教育研修を経て、実際の現場に送り出される。 社内研修は、会社から人材への投資フェーズであり、それ以降は会社が投資分を回収するフェーズとも言える。

しかし、ここに大きな問題がある。 回収フェーズでは既に人材の教育が終わり、既に転職市場での価値が上がっている。 投資された人材には「会社への恩」以上の会社にとどまる理由がない。 投資フェーズ直後に投資した人材に退職されると、投資をした会社は大赤字なのだ。

業態をSIerと仮定して考えてみる。 長年プログラマーとして働いていると感覚が麻痺するが、プログラミングというのは教育を受ければ誰でもできるものではない。 教育研修を受けても、現場では思うように仕事ができず、クライアントとの契約更新に至れないプログラマも中にはいる。

前述のように、参画する案件がなくなることを、「利用可能」を表す英単語 available (アベイラブル) から転じて、アベるという動詞で表現する。

日本には解雇規制があるため、アベる社員を解雇できない。 会社は利益の上がらない社員に対しても給与を払い続けることになる。 その原資はもちろん、現場で活躍している社員の稼ぎだ。 すると、未経験入社した会社の給与は市場相場と比べ、ますます魅力的ではなくなる。 市場原理が正しく働けば、会社にはアベる社員ばかりが残ってしまうだろう。 未経験採用は市場原理を無視したシステムなのだ。

未経験採用について考える発端になったのが以下のツイートだ。

このツイートに対して「自己のキャリアのために投資をして頂いた会社を踏み台にするなんて迷惑だ」という人事経験者からの反響も多い。 しかし、未経験採用をする時点で、こうした踏み台リスクは承知しておくべきだ。 他責は問題解決に繋がらないし、踏み台にした人間が得をしている以上、このような問題は起こり続ける。 (ツイートの投稿者は、嘘の退職理由を伝えた元社員を咎めつつも、採用の問題として主体的に捉えており、好感がもてる)

私もベテランの同僚もかつては未経験。 市場原理を無視した未経験採用のおかげで今のキャリアがある。(このことには本当に感謝している) 日本に解雇規制がある限り、このような「踏み台リスク」は業界の悩みの種であり続けるだろう。