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量子力学

前提知識

ド・ブロイの関係式

質量 mm の粒子が速さ vv (運動量 mv=pmv=p) で運動する場合、その粒子は以下の式で示される波長 λ\lambda に相当する波 (ド・ブロイ波, de Broglie wave) であるとみなせる。

λ=hmv=hp,ν=Eh\lambda=\dfrac{h}{mv}=\dfrac{h}p,\nu=\dfrac{E}h

式中の h  (6.63×1034)h\thickspace(\simeq6.63\times10^{-34})プランク定数 (Planck constant) という。 また、ド・ブロイ波の波長 λ\lambdaド・ブロイ波長 (de Broglie wavelength) という。

不確定性関係

粒子の位置と運動量が両方確定している状態は存在しない。

ΔxΔp  (=h2π)\Delta{x}\Delta{p}\ge\hbar\;(\hbar=\dfrac{h}{2\pi})

不確定性関係は、確率的に振る舞う量子の特性について述べたもので、系を測定する行為そのものが系に影響を与えてしまう観測者効果とは本質的に異なるものである。

シュレディンガー方程式

シュレディンガー方程式 (Schrodinger equation) (以下、S.eq) は、量子の状態を表す波動関数を解にもつ、量子力学における基礎方程式である。

iδδtψ(r,t)={22m2+V(r)}ψ(r,t)i\hbar\dfrac\delta{\delta t}\psi(\bold{r},t)=\left\{-\dfrac{\hbar^2}{2m}\nabla^2+V(\bold{r})\right\}\psi(\bold{r},t)

系の全エネルギー (ハミルトニアン, Hamiltonian) に相当する 22m2+V(r)-\dfrac{\hbar^2}{2m}\nabla^2+V(\bold{r})H^\hat{H} で表すことがある。
H^\hat{H} を用いると、前述のS.eqは

iδδtψ(r,t)=H^ψ(r,t)i\hbar\dfrac\delta{\delta t}\psi(\bold{r},t)=\hat{H}\psi(\bold{r},t)

と表せる。

導出

ドブロイの関係式 λ=hp,ν=Eh\lambda=\dfrac{h}p,\nu=\dfrac{E}h より、sin(pxEt),cos(pxEt)\sin\left(\dfrac{p}\hbar x-\dfrac{E}\hbar t\right),\cos\left(\dfrac{p}\hbar x-\dfrac{E}\hbar t\right) を組み合わせて運動量 pp をもつ一次元の波 ψ(r,t)\psi(r,t) を考える。

Δp=0,Δx=    ψ(r,t)2=一定\Delta p=0,\Delta x=\infty\implies|\psi(r,t)|^2=\text{一定} であることから

ψ(x,t)=A{cos(pxEt)+isin(pxEt)}=Aexp{i(pxEt)}\begin{aligned} \psi(x,t)&=A\left\{\cos\left(\dfrac{p}\hbar x-\dfrac{E}\hbar t\right)+i\sin\left(\dfrac{p}\hbar x-\dfrac{E}\hbar t\right)\right\}\\ &=A\exp\left\{i\left(\frac{p}\hbar x-\frac{E}\hbar t\right)\right\} \end{aligned}

がこれを満たす。

次に、ψ(x,t)\psi(x,t) を使って、運動エネルギーの式 E=p22mE=\dfrac{p^2}{2m} を表してみる。

{tψ(x,t)=iEψ(x,t)2x2ψ(x,t)=p22ψ(x,t)\begin{cases} \dfrac\partial{\partial t}\psi(x,t)=-i\dfrac{E}\hbar\psi(x,t)\\ \dfrac{\partial^2}{\partial x^2}\psi(x,t)=-\dfrac{p^2}{\hbar^2}\psi(x,t) \end{cases}

より

{E=itψ(x,t)p22m=22m2x2ψ(x,t)\begin{cases} E&=-i\hbar\dfrac\partial{\partial t}\psi(x,t)\\ \dfrac{p^2}{2m}&=-\dfrac{\hbar^2}{2m}\dfrac{\partial^2}{\partial x^2}\psi(x,t) \end{cases}

となり、E=p22mE=\dfrac{p^2}{2m}

itψ(x,t)=22m2x2ψ(x,t)i\hbar\dfrac{\partial}{\partial t}\psi(x,t)=-\dfrac{\hbar^2}{2m}\dfrac{\partial^2}{\partial x^2}\psi(x,t)

と表せる。

ここで、ポテンシャル V(x)V(x) を考慮する。
具体的には 22m2x2ψ(x,t)-\dfrac{\hbar^2}{2m}\dfrac{\partial^2}{\partial x^2}\psi(x,t) (EE に相当する部分) を 22m2x2ψ(x,t)+V(x)-\dfrac{\hbar^2}{2m}\dfrac{\partial^2}{\partial x^2}\psi(x,t)+V(x) で置き換える。

itψ(x,t)={22m2x2ψ(x,t)+V(x)}ψ(x,t)i\hbar\dfrac{\partial}{\partial t}\psi(x,t)=\left\{-\dfrac{\hbar^2}{2m}\dfrac{\partial^2}{\partial x^2}\psi(x,t)+V(x)\right\}\psi(x,t)

位置 xx を、三次元に拡張すると

iδδtψ(r,t)={22m2+V(r)}ψ(r,t)i\hbar\dfrac\delta{\delta t}\psi(\bold{r},t)=\left\{-\dfrac{\hbar^2}{2m}\nabla^2+V(\bold{r})\right\}\psi(\bold{r},t)

が導ける。

定常状態

ψ(r,t)\psi(\bold{r},t)ψ(r,t)=ϕ(r)f(t)\psi(\bold{r},t)=\phi(\bold{r})f(t) の形 (変数分離形) で表せるようなS.eqの解 (特解) を考える。

S.eqに ψ(r,t)=ϕ(r)f(t)\psi(\bold{r},t)=\phi(\bold{r})f(t) を代入して

iϕ(r)ddtf(t)=f(t)H^ϕ(r)if(t)ddtf(t)=1ϕ(r)H^ϕ(r)\begin{aligned} i\hbar\phi(\bold{r})\dfrac{d}{dt}f(t)&=f(t)\hat{H}\phi(\bold{r})\\ \dfrac{i\hbar}{f(t)}\dfrac{d}{dt}f(t)&=\dfrac1{\phi(\bold{r})}\hat{H}{\phi(\bold{r})} \end{aligned}

ここで、if(t)ddtf(t)=1ϕ(r)H^ϕ(r)=E\dfrac{i\hbar}{f(t)}\dfrac{d}{dt}f(t)=\dfrac1{\phi(\bold{r})}\hat{H}{\phi(\bold{r})}=E とおくと

  1. if(t)ddtf(t)=E\dfrac{i\hbar}{f(t)}\dfrac{d}{dt}f(t)=E より

    ddtf(t)=iEf(t)f(t)=Cexp(iEt)  (C は積分定数)\begin{aligned} \dfrac{d}{dt}f(t)&=-i\dfrac{E}\hbar f(t)\\ f(t)&=C\exp\left(-i\frac{E}\hbar t\right)\;(C\text{ は積分定数}) \end{aligned}
  2. 1ϕ(r)H^ϕ(r)=E\dfrac1{\phi(\bold{r})}\hat{H}\phi(\bold{r})=E より

    H^ϕ(r)=Eϕ(r)\hat{H}\phi(\bold{r})=E\phi(\bold{r})

    が導ける。この方程式を固有値方程式 (eigen equation) という。

    固有値方程式を解くと (E,ϕ(r))=(E1,ϕ1(r)),(E2,ϕ2(r)),(E,\phi(\bold{r}))=(E_1,\phi_1(\bold{r})),(E_2,\phi_2(\bold{r})),\dots のように独立な多数の解が得られる。
    このときの、E1,E2,E_1,E_2,\dotsエネルギー固有値 (energy eigenvalue) といい、ϕ1(r),ϕ2(r),\phi_1(\bold{r}),\phi_2(\bold{r}),\dotsエネルギー固有状態 (energy eigenstate) という。

    とりうる状態の中でエネルギー固有値が最も低い状態を基底状態 (ground state)、それ以外の状態を励起状態 (excited state) という。
    また、基底状態のときのエネルギー固有値を零点エネルギー (zero-point energy) という。

    このように、エネルギー EE が確定している状態のことを、量子力学における定常状態 (steady state) と定義する。

本来、物理学における定常状態は時間に依存しないはずだが、ψ(r,t)\psi(\bold{r},t) は時間 tt に依存しているように見える。

しかし、物理的に意味があるのは ψ(r,t)\psi(\bold{r},t) そのものではなく ψ(r,t)2|\psi(\bold{r},t)|^2 であり、これは

ψ(r,t)2=ϕ(r)Cexp(iEt)2=C2ϕ(r)2\begin{aligned} |\psi(\bold{r},t)|^2&= \left|\phi(\bold{r})C\exp\left({-i\dfrac{E}\hbar t}\right)\right|^2\\ &=|C|^2|\phi(\bold{r})|^2 \end{aligned}

となるため、量子力学における定常状態も本質的には時間 tt に依存しないことが言える。

なお、S.eqの一般解は

ψ(r,t)=nCnexp(iEnt)ϕn(r)\psi(\bold{r},t)=\sum_nC_n\exp\left(-i\dfrac{E_n}\hbar t\right)\phi_n(\bold{r})

となる。

無限に深い井戸型ポテンシャル

一次元のS.eq

{t22md2dx2+V(x)}ϕ(x)=Eϕ(x)\left\{-\dfrac{t^2}{2m}\dfrac{d^2}{dx^2}+V(x)\right\}\phi(x)=E\phi(x)

において

V(x)={0(xa)(x>a)V(x)=\begin{cases} 0&(|x|\le a)\\ \infty&(|x|>a) \end{cases}

のようなポテンシャルの形 (無限に深い井戸型ポテンシャル) を考える。

V(x)V(x) を代入すると

{22md2dx2ϕ(x)=Eϕ(x)(xa)ϕ(x)=0(x>a)\begin{cases} \begin{aligned} -\dfrac{\hbar^2}{2m}\dfrac{d^2}{dx^2}\phi(x)&=E\phi(x)&(|x|\le a)\\ \phi(x)&=0&(|x|>a) \end{aligned} \end{cases}

ϕ(x)=0  (x>a)\phi(x)=0\thickspace(|x|>a) より、無限に深い井戸型ポテンシャルでは粒子は限られた範囲にのみ存在することが言える。


このような状態を束縛状態 (bound state) という。

xa|x|\le a において

d2dx2ϕ(x)=2mE2ϕ(x)\dfrac{d^2}{dx^2}\phi(x)=-\dfrac{2mE}{\hbar^2}\phi(x)

ここで k=2mEk=\dfrac{\sqrt{2mE}}\hbar とおくと

d2dx2ϕ(x)=k2ϕ(x)ϕ(x)=Asinkx+Bcoskx\begin{aligned} \dfrac{d^2}{dx^2}\phi(x)&=-k^2\phi(x)\\ \phi(x)&=A\sin{kx}+B\cos{kx} \end{aligned}

ここで、波動関数に連続性を課すと

{ϕ(a)=Asinka+Bcoska=0ϕ(a)=Asinka+Bcoska=0\begin{cases} \phi(a)&=A\sin{ka}+B\cos{ka}=0\\ \phi(-a)&=-A\sin{ka}+B\cos{ka}=0 \end{cases}

A=B=0A=B=0 でない解を考えると

A=0,ka=nπ2  (n=1,3,5,)B=0,ka=nπ2  (n=2,4,6,)A=0,ka=\dfrac{n\pi}2\;(n=1,3,5,\dots)\\ B=0,ka=\dfrac{n\pi}2\;(n=2,4,6,\dots)

したがって、k=2mEk=\dfrac{\sqrt{2mE}}\hbar より

E=2k22m=2π28ma2n2  (n=1,2,3,)ϕ(x)={Bcosnπ2ax  (n=1,3,5,)Asinnπ2ax  (n=2,4,6,)\begin{aligned} E&=\dfrac{\hbar^2k^2}{2m}=\dfrac{\hbar^2\pi^2}{8ma^2}n^2\;(n=1,2,3,\dots)\\ \phi(x)&=\begin{cases} B\cos\dfrac{n\pi}{2a}x\;(n=1,3,5,\dots)\\ A\sin\dfrac{n\pi}{2a}x\;(n=2,4,6,\dots) \end{cases} \end{aligned}

よって

束縛状態である    とりうるエネルギーの値が離散的\text{束縛状態である}\implies\text{とりうるエネルギーの値が離散的}

ということが言える。

一般的性質

  1. 束縛状態はすべて異なるエネルギー固有値をもつ (「縮退 (degeneracy) なし」という)

  2. V(x)V(x) が偶関数であるとき、束縛状態の波動関数は偶関数か奇関数のどちらかになる

有限の深さの井戸型ポテンシャル

一次元のS.eq

{t22md2dx2+V(x)}ϕ(x)=Eϕ(x)\left\{-\dfrac{t^2}{2m}\dfrac{d^2}{dx^2}+V(x)\right\}\phi(x)=E\phi(x)

において

V(x)={0(xa)V0(x>a)V(x)=\begin{cases} 0&(|x|\le a)\\ V_0&(|x|>a) \end{cases}

のようなポテンシャルの形 (有限の深さの井戸型ポテンシャル) を考える。

k=2mEk=\dfrac{\sqrt{2mE}}\hbar とおくと

  1. xa|x|\le a のとき

    ϕ(x)=Asinkx+Bcoskx\phi(x)=A\sin{kx}+B\cos{kx}
  2. x>a|x|>a のとき

    (22md2dx2+V0)ϕ(x)=Eϕ(x)d2dx2ϕ(x)=2m(V0E)2ϕ(x)\begin{aligned} \left(-\dfrac{\hbar^2}{2m}\dfrac{d^2}{dx^2}+V_0\right)\phi(x)&=E\phi(x)\\ \dfrac{d^2}{dx^2}\phi(x)&=\dfrac{2m(V_0-E)}{\hbar^2}\phi(x) \end{aligned}

    ここで ρ=2m(V0E)  (ρ>0)\rho=\dfrac{\sqrt{2m(V_0-E)}}{\hbar}\;(\rho>0) とおくと

    d2dx2ϕ(x)=ρ2ϕ(x)ϕ(x)=Cexpρx+Dexp(ρx)\begin{aligned} \dfrac{d^2}{dx^2}\phi(x)&=\rho^2\phi(x)\\ \therefore \phi(x)&=C\exp{\rho x}+D\exp(-\rho x) \end{aligned}

    x±x\to\pm\inftyϕ(x)0\phi(x)\to0 となるように任意定数を選ぶと

    ϕ(x)={Cexpρx(x<a)Dexp(ρx)(x>a)\phi(x)=\begin{cases} C\exp{\rho x}&(x<-a)\\ D\exp(-\rho x)&(x>a) \end{cases}

ここで

  1. ϕ(x)\phi(x) が偶関数 (D=CD=C) である場合

    ϕ(x)={Cexpρx(x<a)Bcoskx(axa)Cexp(ρx)(x>a)\phi(x)=\begin{cases} C\exp{\rho x}&(x<-a)\\ B\cos{kx}&(-a\le x\le a)\\ C\exp(-\rho x)&(x>a) \end{cases}

    x=ax=a における ϕ(x)\phi(x) に連続条件を課すと

    Cexp(ρa)=Bcoska(1)C\exp(-\rho a)=B\cos{ka}\tag{1}

    また、x=ax=a における ddxϕ(x)\dfrac{d}{dx}\phi(x) にも連続条件を課すと

    Cρexp(ρa)=Bksinka(2)C\rho\exp(-\rho a)=Bk\sin{ka}\tag{2}

    (2)(1)\dfrac{\text{(2)}}{\text{(1)}} より

    ρ=ktanka\rho=k\tan{ka}
  2. ϕ(x)\phi(x) が奇関数 (D=CD=-C) である場合

    ϕ(x)={Cexpρx(x<a)Asinkx(axa)Cexp(ρx)(x>a)\phi(x)=\begin{cases} C\exp{\rho x}&(x<-a)\\ A\sin{kx}&(-a\le x\le a)\\ -C\exp(-\rho x)&(x>a) \end{cases}

    x=ax=a における ϕ(x)\phi(x) に連続条件を課すと

    Cexp(ρa)=Asinka(3)-C\exp(-\rho a)=A\sin{ka}\tag{3}

    また、x=ax=a における ddxϕ(x)\dfrac{d}{dx}\phi(x) にも連続条件を課すと

    Cρexp(ρa)=Akcoska(4)C\rho\exp(-\rho a)=Ak\cos{ka}\tag{4}

    (4)(3)\dfrac{\text{(4)}}{\text{(3)}} より

    ρ=kcotka\rho=-k\cot{ka}

以上をまとめると

ρa=katankaρa=kacotka\begin{aligned} \rho a&=ka\tan{ka}\\ \rho a&=-ka\cot{ka} \end{aligned}

y=ρa,x=kay=\rho a,x=ka とおくと

y=xtanxy=xcotx\begin{aligned} y&=x\tan{x}\\ y&=-x\cot{x} \end{aligned}

また、x,yx,yx2+y2=2mV0a22x^2+y^2=\dfrac{2mV_0a^2}{\hbar^2} を満たすので

y=xtanxy=xcotxx2+y2=2mV0a22\begin{aligned} y&=x\tan{x}\\ y&=-x\cot{x}\\ x^2+y^2&=\dfrac{2mV_0a^2}{\hbar^2} \end{aligned}

x>0,y>0x>0,y>0 における交点が ϕ(x)\phi(x) の解となる。

よって

(n1)π2mV0a<nπ    偶関数解が n 個存在(2n1)π22mV0a<(2n+1)π    奇関数解が n 個存在\begin{aligned} (n-1)\pi\le\dfrac{\sqrt{2mV_0}a}{\hbar}<n\pi&\implies\text{偶関数解が }n\text{ 個存在}\\ (2n-1)\dfrac\pi2\le\dfrac{\sqrt{2mV_0}a}{\hbar}<(2n+1)\pi&\implies\text{奇関数解が }n\text{ 個存在} \end{aligned}

が言える。

トンネル効果

古典力学では通過することができないと考えられているポテンシャル障壁を粒子が一定の確率で通過する現象のことをトンネル効果 (tunneling effect) という。

古典力学では、粒子がポテンシャル障壁を超えるだけのエネルギーをもっていない限りその障壁を透過することはできないと考えられている。

しかし、量子力学のトンネル効果は原子核のα崩壊恒星内の核融合などの様々な物理現象を説明する上で欠かせない役割を果たす。 また、トンネルダイオード走査型トンネル顕微鏡など、トンネル効果を応用した技術も既に多く存在する。

一次元の位置 xx に対するS.eq

{t22md2dx2+V(x)}ϕ(x)=Eϕ(x)\left\{-\dfrac{t^2}{2m}\dfrac{d^2}{dx^2}+V(x)\right\}\phi(x)=E\phi(x)

において

V(x)={V0(0xd)0(otherwise)V(x)=\begin{cases} V_0&(0\le x\le d)\\ 0&(\text{otherwise}) \end{cases}

のようなポテンシャル (高さ V0V_0 厚さ dd のエネルギー障壁がある) の形を考え、xx 軸の負の方向から電子を入射させたときに、電子がエネルギー障壁を透過するトンネル確率を考える。

  1. x<0(V(x)=0)x<0\enspace(V(x)=0) のとき

    k=2mEk=\dfrac{\sqrt{2mE}}\hbar とおくと

    d2dx2ϕ(x)=k2ϕ(x)ϕ(x)=Aexpikx+Bexp(ikx)\begin{aligned} \dfrac{d^2}{dx^2}\phi(x)&=-k^2\phi(x)\\ \phi(x)&=A\exp{ikx}+B\exp(-ikx) \end{aligned}
  2. x>d(V(x)=0)x>d\enspace(V(x)=0) のとき

    k=2mEk=\dfrac{\sqrt{2mE}}\hbar とおくと、x<0x<0 のときと同様に

    ϕ(x)=Fexpikx+Gexp(ikx)\begin{aligned} \phi(x)&=F\exp{ikx}+G\exp(-ikx) \end{aligned}
  3. 0xd(V(x)=V0)0\le x\le d\enspace(V(x)=V_0) のとき

    ρ=2m(V0E)\rho=\dfrac{\sqrt{2m(V_0-E)}}\hbar とおくと

    d2dx2ϕ(x)=ρ2ϕ(x)ϕ(x)=Cexpρx+Dexp(ρx)\begin{aligned} \dfrac{d^2}{dx^2}\phi(x)&=\rho^2\phi(x)\\ \phi(x)&=C\exp{\rho x}+D\exp(-\rho x) \end{aligned}

以上をまとめると

ϕ(x)={Aexpikx+Bexp(ikx)(x<0)Cexpρx+Dexp(ρx)(0xd)Fexpikx+Gexp(ikx)(x>d)\phi(x)=\begin{cases} A\exp{ikx}+B\exp(-ikx)&(x<0)\\ C\exp{\rho x}+D\exp(-\rho x)&(0\le x\le d)\\ F\exp{ikx}+G\exp(-ikx)&(x>d) \end{cases}

今、xx 軸の負の方向から電子を入射する場合を考えているので

Aexpikx:入射波Bexp(ikx):反射波Fexpikx:透過波Gexp(ikx):存在しない波\begin{aligned} A\exp{ikx}&:\text{入射波}\\ B\exp(-ikx)&:\text{反射波}\\ F\exp{ikx}&:\text{透過波}\\ G\exp(-ikx)&:\text{存在しない波} \end{aligned}

となるため、FA2\left|\dfrac{F}A\right|^2 が求めるトンネル確率になる。

また、Gexp(ikx)G\exp(-ikx) は存在しないため

G=0ϕ(x)=Fexpikx\begin{aligned} G&=0\\ \therefore\phi(x)&=F\exp{ikx} \end{aligned}

としてよい。

補足

仮に ϕ(x)=Aexpikx\phi(x)=A\exp{ikx} とすると、一次元の波動関数 ψ(x,t)\psi(x,t)

ψ(x,t)=ϕ(x)f(t)=Aexpi(kxEt)\begin{aligned} \psi(x,t)&=\phi(x)f(t)\\ &=A\exp{i\left(kx-\dfrac{E}\hbar t\right)} \end{aligned}

ここで ω=E\omega=\dfrac{E}\hbar とおくと

ψ(x,t)=expi(kxωt)=cos(kxωt)+isin(kxωt)\begin{aligned} \psi(x,t)&=\exp{i(kx-\omega t)}\\ &=\cos(kx-\omega t)+i\sin(kx-\omega t) \end{aligned}

であることから、波動関数 ψ(x,t)\psi(x,t)xx 軸の方向に速度 ωk\dfrac\omega{k} で流れる波だということが分かる。

つまり

ϕ(x)={Aexpikx+Bexp(ikx)(x<0)Cexpρx+Dexp(ρx)(0xd)Fexpikx(x>d)\phi(x)=\begin{cases} A\exp{ikx}+B\exp(-ikx)&(x<0)\\ C\exp{\rho x}+D\exp(-\rho x)&(0\le x\le d)\\ F\exp{ikx}&(x>d) \end{cases}

を解けばよい。

x=0x=0 における ϕ(x)\phi(x) に連続性を課すと

A+B=C+D(1)A+B=C+D\tag{1}

また、x=0x=0 における ddxϕ(x)\dfrac{d}{dx}\phi(x) にも連続性を課すと

ik(AB)=ρ(CD)(2)ik(A-B)=\rho(C-D)\tag{2}

x=dx=d における ϕ(x)\phi(x) に連続性を課すと

Cexpρd+Dexp(ρd)=Fexpikd(3)C\exp{\rho d}+D\exp(-\rho d)=F\exp{ikd}\tag{3}

また、x=dx=d における ddxϕ(x)\dfrac{d}{dx}\phi(x) にも連続性を課すと

ρ{CexpρdDexp(ρd)}=ikFexpikd(4)\rho\{C\exp{\rho d}-D\exp(-\rho d)\}=ikF\exp{ikd}\tag{4}

(3)+(4)ρ\text{(3)}+\dfrac{\text{(4)}}\rho より

2Cexpρd=F(1ikρ)expikdC=12(1+ikρ)exp(ikdρd)FD=12(1ikρ)exp(ikd+ρd)F\begin{aligned} 2C\exp{\rho d}&=F\left(1-\dfrac{ik}\rho\right)\exp{ikd}\\ C&=\dfrac12\left(1+\dfrac{ik}\rho\right)\exp(ikd-\rho d)F\\ D&=\dfrac12\left(1-\dfrac{ik}\rho\right)\exp(ikd+\rho d)F \end{aligned}

(1)+(2)ik\text{(1)}+\dfrac{\text{(2)}}{ik} より

A=12(1+ρik)C+12(1ρik)DA=\dfrac12\left(1+\dfrac\rho{ik}\right)C+\dfrac12\left(1-\dfrac\rho{ik}\right)D

ここに C,DC,D を代入して整理すると

FA=4ikexp(ikd)(k+iρ)exp(ρd)(kiρ)expρdFA2={1+(k2+ρ2)sinh2pd4k2ρ2}1\begin{aligned} \dfrac{F}A&=\dfrac{4ik\exp(-ikd)}{(k+i\rho)\exp(-\rho d)-(k-i\rho)\exp{\rho d}}\\ \left|\dfrac{F}A\right|^2&=\left\{1+\dfrac{(k^2+\rho^2)\sinh^2{pd}}{4k^2\rho^2}\right\}^{-1} \end{aligned}

ここで k=2mE,ρ=2m(V0E)k=\dfrac{\sqrt{2mE}}\hbar,\rho=\dfrac{\sqrt{2m(V_0-E)}}\hbar に戻すと、求めるトンネル確率は

FA2={1+V02sinh22m(V0E)d4E(V0E)}1\left|\dfrac{F}A\right|^2=\left\{1+\dfrac{V_0^2\sinh^2\dfrac{\sqrt{2m(V_0-E)}}\hbar d}{4E(V_0-E)}\right\}^{-1}

となる。

参考