前提知識
ド・ブロイの関係式
質量 m の粒子が速さ v (運動量 mv=p) で運動する場合、その粒子は以下の式で示される波長 λ に相当する波 (ド・ブロイ波, de Broglie wave) であるとみなせる。
λ=mvh=ph,ν=hE
式中の h(≃6.63×10−34) をプランク定数 (Planck constant) という。
また、ド・ブロイ波の波長 λ をド・ブロイ波長 (de Broglie wavelength) という。
不確定性関係
粒子の位置と運動量が両方確定している状態は存在しない。
ΔxΔp≥ℏ(ℏ=2πh)
不確定性関係は、確率的に振る舞う量子の特性について述べたもので、系を測定する行為そのものが系に影響を与えてしまう観測者効果とは本質的に異なるものである。
シュレディンガー方程式
シュレディンガー方程式 (Schrodinger equation) (以下、S.eq) は、量子の状態を表す波動関数を解にもつ、量子力学における基礎方程式である。
iℏδtδψ(r,t)={−2mℏ2∇2+V(r)}ψ(r,t)
系の全エネルギー (ハミルトニアン, Hamiltonian) に相当する −2mℏ2∇2+V(r) を H^ で表すことがある。
H^ を用いると、前述のS.eqは
iℏδtδψ(r,t)=H^ψ(r,t)
と表せる。
ドブロイの関係式 λ=ph,ν=hE より、sin(ℏpx−ℏEt),cos(ℏpx−ℏEt) を組み合わせて運動量 p をもつ一次元の波 ψ(r,t) を考える。
Δp=0,Δx=∞⟹∣ψ(r,t)∣2=一定 であることから
ψ(x,t)=A{cos(ℏpx−ℏEt)+isin(ℏpx−ℏEt)}=Aexp{i(ℏpx−ℏEt)}がこれを満たす。
次に、ψ(x,t) を使って、運動エネルギーの式 E=2mp2 を表してみる。
⎩⎨⎧∂t∂ψ(x,t)=−iℏEψ(x,t)∂x2∂2ψ(x,t)=−ℏ2p2ψ(x,t)より
⎩⎨⎧E2mp2=−iℏ∂t∂ψ(x,t)=−2mℏ2∂x2∂2ψ(x,t)となり、E=2mp2 は
iℏ∂t∂ψ(x,t)=−2mℏ2∂x2∂2ψ(x,t)と表せる。
ここで、ポテンシャル V(x) を考慮する。
具体的には −2mℏ2∂x2∂2ψ(x,t) (E に相当する部分) を −2mℏ2∂x2∂2ψ(x,t)+V(x) で置き換える。
iℏ∂t∂ψ(x,t)={−2mℏ2∂x2∂2ψ(x,t)+V(x)}ψ(x,t)位置 x を、三次元に拡張すると
iℏδtδψ(r,t)={−2mℏ2∇2+V(r)}ψ(r,t)が導ける。
定常状態
ψ(r,t) が ψ(r,t)=ϕ(r)f(t) の形 (変数分離形) で表せるようなS.eqの解 (特解) を考える。
S.eqに ψ(r,t)=ϕ(r)f(t) を代入して
iℏϕ(r)dtdf(t)f(t)iℏdtdf(t)=f(t)H^ϕ(r)=ϕ(r)1H^ϕ(r)
ここで、f(t)iℏdtdf(t)=ϕ(r)1H^ϕ(r)=E とおくと
-
f(t)iℏdtdf(t)=E より
dtdf(t)f(t)=−iℏEf(t)=Cexp(−iℏEt)(C は積分定数)
-
ϕ(r)1H^ϕ(r)=E より
H^ϕ(r)=Eϕ(r)
が導ける。この方程式を固有値方程式 (eigen equation) という。
固有値方程式を解くと (E,ϕ(r))=(E1,ϕ1(r)),(E2,ϕ2(r)),… のように独立な多数の解が得られる。
このときの、E1,E2,… をエネルギー固有値 (energy eigenvalue) といい、ϕ1(r),ϕ2(r),… をエネルギー固有状態 (energy eigenstate) という。
とりうる状態の中でエネルギー固有値が最も低い状態を基底状態 (ground state)、それ以外の状態を励起状態 (excited state) という。
また、基底状態のときのエネルギー固有値を零点エネルギー (zero-point energy) という。
このように、エネルギー E が確定している状態のことを、量子力学における定常状態 (steady state) と定義する。
本来、物理学における定常状態は時間に依存しないはずだが、ψ(r,t) は時間 t に依存しているように見える。
しかし、物理的に意味があるのは ψ(r,t) そのものではなく ∣ψ(r,t)∣2 であり、これは
∣ψ(r,t)∣2=ϕ(r)Cexp(−iℏEt)2=∣C∣2∣ϕ(r)∣2となるため、量子力学における定常状態も本質的には時間 t に依存しないことが言える。
なお、S.eqの一般解は
ψ(r,t)=n∑Cnexp(−iℏEnt)ϕn(r)
となる。
無限に深い井戸型ポテンシャル
一次元のS.eq
{−2mt2dx2d2+V(x)}ϕ(x)=Eϕ(x)
において
V(x)={0∞(∣x∣≤a)(∣x∣>a)
のようなポテンシャルの形 (無限に深い井戸型ポテンシャル) を考える。
V(x) を代入すると
⎩⎨⎧−2mℏ2dx2d2ϕ(x)ϕ(x)=Eϕ(x)=0(∣x∣≤a)(∣x∣>a)
ϕ(x)=0(∣x∣>a)
より、無限に深い井戸型ポテンシャルでは粒子は限られた範囲にのみ存在することが言える。
このような状態を束縛状態 (bound state) という。
∣x∣≤a において
dx2d2ϕ(x)=−ℏ22mEϕ(x)
ここで k=ℏ2mE とおくと
dx2d2ϕ(x)ϕ(x)=−k2ϕ(x)=Asinkx+Bcoskx
ここで、波動関数に連続性を課すと
{ϕ(a)ϕ(−a)=Asinka+Bcoska=0=−Asinka+Bcoska=0
A=B=0 でない解を考えると
A=0,ka=2nπ(n=1,3,5,…)B=0,ka=2nπ(n=2,4,6,…)
したがって、k=ℏ2mE より
Eϕ(x)=2mℏ2k2=8ma2ℏ2π2n2(n=1,2,3,…)=⎩⎨⎧Bcos2anπx(n=1,3,5,…)Asin2anπx(n=2,4,6,…)
よって
束縛状態である⟹とりうるエネルギーの値が離散的
ということが言える。
一般的性質
-
束縛状態はすべて異なるエネルギー固有値をもつ (「縮退 (degeneracy) なし」という)
-
V(x) が偶関数であるとき、束縛状態の波動関数は偶関数か奇関数のどちらかになる
有限の深さの井戸型ポテンシャル
一次元のS.eq
{−2mt2dx2d2+V(x)}ϕ(x)=Eϕ(x)
において
V(x)={0V0(∣x∣≤a)(∣x∣>a)
のようなポテンシャルの形 (有限の深さの井戸型ポテンシャル) を考える。
k=ℏ2mE とおくと
-
∣x∣≤a のとき
ϕ(x)=Asinkx+Bcoskx
-
∣x∣>a のとき
(−2mℏ2dx2d2+V0)ϕ(x)dx2d2ϕ(x)=Eϕ(x)=ℏ22m(V0−E)ϕ(x)
ここで ρ=ℏ2m(V0−E)(ρ>0) とおくと
dx2d2ϕ(x)∴ϕ(x)=ρ2ϕ(x)=Cexpρx+Dexp(−ρx)
x→±∞ で ϕ(x)→0 となるように任意定数を選ぶと
ϕ(x)={CexpρxDexp(−ρx)(x<−a)(x>a)
ここで
-
ϕ(x) が偶関数 (D=C) である場合
ϕ(x)=⎩⎨⎧CexpρxBcoskxCexp(−ρx)(x<−a)(−a≤x≤a)(x>a)
x=a における ϕ(x) に連続条件を課すと
Cexp(−ρa)=Bcoska(1)
また、x=a における dxdϕ(x) にも連続条件を課すと
Cρexp(−ρa)=Bksinka(2)
(1)(2) より
ρ=ktanka
-
ϕ(x) が奇関数 (D=−C) である場合
ϕ(x)=⎩⎨⎧CexpρxAsinkx−Cexp(−ρx)(x<−a)(−a≤x≤a)(x>a)
x=a における ϕ(x) に連続条件を課すと
−Cexp(−ρa)=Asinka(3)
また、x=a における dxdϕ(x) にも連続条件を課すと
Cρexp(−ρa)=Akcoska(4)
(3)(4) より
ρ=−kcotka
以上をまとめると
ρaρa=katanka=−kacotka
y=ρa,x=ka とおくと
yy=xtanx=−xcotx
また、x,y は x2+y2=ℏ22mV0a2 を満たすので
yyx2+y2=xtanx=−xcotx=ℏ22mV0a2
の x>0,y>0 における交点が ϕ(x) の解となる。
よって
(n−1)π≤ℏ2mV0a<nπ(2n−1)2π≤ℏ2mV0a<(2n+1)π⟹偶関数解が n 個存在⟹奇関数解が n 個存在
が言える。
トンネル効果
古典力学では通過することができないと考えられているポテンシャル障壁を粒子が一定の確率で通過する現象のことをトンネル効果 (tunneling effect) という。
古典力学では、粒子がポテンシャル障壁を超えるだけのエネルギーをもっていない限りその障壁を透過することはできないと考えられている。
しかし、量子力学のトンネル効果は原子核のα崩壊や恒星内の核融合などの様々な物理現象を説明する上で欠かせない役割を果たす。
また、トンネルダイオードや走査型トンネル顕微鏡など、トンネル効果を応用した技術も既に多く存在する。
一次元の位置 x に対するS.eq
{−2mt2dx2d2+V(x)}ϕ(x)=Eϕ(x)
において
V(x)={V00(0≤x≤d)(otherwise)
のようなポテンシャル (高さ V0 厚さ d のエネルギー障壁がある) の形を考え、x 軸の負の方向から電子を入射させたときに、電子がエネルギー障壁を透過するトンネル確率を考える。
-
x<0(V(x)=0) のとき
k=ℏ2mE とおくと
dx2d2ϕ(x)ϕ(x)=−k2ϕ(x)=Aexpikx+Bexp(−ikx)
-
x>d(V(x)=0) のとき
k=ℏ2mE とおくと、x<0 のときと同様に
ϕ(x)=Fexpikx+Gexp(−ikx)
-
0≤x≤d(V(x)=V0) のとき
ρ=ℏ2m(V0−E) とおくと
dx2d2ϕ(x)ϕ(x)=ρ2ϕ(x)=Cexpρx+Dexp(−ρx)
以上をまとめると
ϕ(x)=⎩⎨⎧Aexpikx+Bexp(−ikx)Cexpρx+Dexp(−ρx)Fexpikx+Gexp(−ikx)(x<0)(0≤x≤d)(x>d)
今、x 軸の負の方向から電子を入射する場合を考えているので
AexpikxBexp(−ikx)FexpikxGexp(−ikx):入射波:反射波:透過波:存在しない波
となるため、AF2 が求めるトンネル確率になる。
また、Gexp(−ikx) は存在しないため
G∴ϕ(x)=0=Fexpikx
としてよい。
補足
仮に ϕ(x)=Aexpikx とすると、一次元の波動関数 ψ(x,t) は
ψ(x,t)=ϕ(x)f(t)=Aexpi(kx−ℏEt)ここで ω=ℏE とおくと
ψ(x,t)=expi(kx−ωt)=cos(kx−ωt)+isin(kx−ωt)であることから、波動関数 ψ(x,t) は x 軸の方向に速度 kω で流れる波だということが分かる。
つまり
ϕ(x)=⎩⎨⎧Aexpikx+Bexp(−ikx)Cexpρx+Dexp(−ρx)Fexpikx(x<0)(0≤x≤d)(x>d)
を解けばよい。
x=0 における ϕ(x) に連続性を課すと
A+B=C+D(1)
また、x=0 における dxdϕ(x) にも連続性を課すと
ik(A−B)=ρ(C−D)(2)
x=d における ϕ(x) に連続性を課すと
Cexpρd+Dexp(−ρd)=Fexpikd(3)
また、x=d における dxdϕ(x) にも連続性を課すと
ρ{Cexpρd−Dexp(−ρd)}=ikFexpikd(4)
(3)+ρ(4) より
2CexpρdCD=F(1−ρik)expikd=21(1+ρik)exp(ikd−ρd)F=21(1−ρik)exp(ikd+ρd)F
(1)+ik(2) より
A=21(1+ikρ)C+21(1−ikρ)D
ここに C,D を代入して整理すると
AFAF2=(k+iρ)exp(−ρd)−(k−iρ)expρd4ikexp(−ikd)={1+4k2ρ2(k2+ρ2)sinh2pd}−1
ここで k=ℏ2mE,ρ=ℏ2m(V0−E) に戻すと、求めるトンネル確率は
AF2=⎩⎨⎧1+4E(V0−E)V02sinh2ℏ2m(V0−E)d⎭⎬⎫−1
となる。
参考