前提知識
ランダムウォーク
点 P は時刻 t=0 で原点にあり、1秒ごとに等しい確率で +σ または −σ だけ移動するものとする。
t 秒後の点 P の位置を R(t) とすると、R(t) を ランダムウォーク (random walk) という。
R(t) は次のような確率変数となる。
E[R(t)]V[R(t)]=0=σ2t
ΔR(t)=R(t+Δt)−R(t)とおくと、ΔR(t) は次のような確率変数となる。
E[ΔR(t)]V[ΔR(t)]=0=σ2よって
E[R(t)]V[R(t)]=E[ΔR(0)+ΔR(1)+⋯+ΔR(t)]=E[ΔR(0)]+E[ΔR(1)]+⋯+E[ΔR(t)]=0=V[ΔR(0)+ΔR(1)+⋯+ΔR(t)]=V[ΔR(0)]+V[ΔR(1)]+⋯+V[ΔR(t)]=σ2+σ2+⋯+σ2=σ2t
ウィーナー過程
点 P は時刻 t=0 で原点にあり、Δt=n1 ごとに等しい確率で +ΔW または −ΔW だけ移動するものとする。
このとき t 秒後の点 P の位置を W(t) とする。
移動を k 回行った後の点 P の位置 W(nk) は次のような確率変数となる。
E[W(nk)]V[W(nk)]=0=ΔW2k
ΔW=±σn1=±σΔt としたときの limn→∞W(t) を ウィーナー過程 (Wiener process) という。
ウィーナー過程はランダムウォークの連続極限である
n=1,ΔW=±σΔt としたときの W(t) はランダムウォークとなる。
V[W(t)]=σ2t=V[R(t)]
ウィーナー過程の別の定義
W(t) が次の条件を満たすとき、W(t) をウィーナー過程という。
W(0)W(t0+t)−W(t0)=0∼N(0,σ2t)
ウィーナー過程の性質
W(t) の速度は dtdW=±σt1=±∞ であるにも関わらず、t=0 における点 P の位置 W(1) は
W(1)=n→∞limk=1∑nΔWとなり、N(0,σ2) に従う有限の値となる。
V[W(1)] も同様に
V[W(1)]=n→∞limk=1∑nV[ΔW]=n→∞limk=1∑nσ2Δt=σ2となり、有限の値となる。
確率微分方程式
X(t) が次の確率微分方程式を満たすとき、X(t) を 確率微分方程式 (stochastic differential equation) という。
dX(t)=μ(X(t),t)dt+σ(X(t),t)dW(t)
この解は (存在すれば) 次のように表される。
X(t)=X(0)+∫0tμ(X(s),s)ds+∫0tσ(X(s),s)dW(s)
伊藤積分
確率微分方程式 dX(t)=μ(X(t),t)dt+σ(X(t),t)dW(t) の解において、右辺の第2項の積分 ∫0tσ(X(s),s)dW(s) は普通の積分とは異なる。
この積分を次のように定義したものを 伊藤積分 (Itô integral) という。
∫0tσ(X(s),s)dW(s)=k=1∑nσ(X(tk−1),tk−1)[W(tk)−W(tk−1)]
確率微分方程式 dX=bW(t)dW の解を考える。
普通に両辺を積分すると
X(t)=X(0)+∫0tbW(s)dW=X(0)+2bW2(t)となりそうだが、b=1,X(0)=0,X(5)=10,W(5)=10 とすると
ΔX(5)=X(6)−X(5)≈bW(5)[W(6)−W(5)]=10[W(6)−W(5)]ここで W(6)−W(5)=ΔW(5)∼N(0,1) なので、0.17 程度の確率で ΔW(5)<−1,ΔX(5)<−10 となり、X(6)<0 となる。
しかし、普通の積分の解は X(6)=21W2(6)>0 となるため、矛盾する。
伊藤積分の定義で bW(t)dW を積分すると
X(t)=X(0)+k=1∑nbW(tk−1)[W(tk)−W(tk−1)]=X(0)+k=1∑nb{21[W(tk)+W(tk−1)]−21[W(tk)−W(tk−1)]}[W(tk)−W(tk−1)]=X(0)+2bk=1∑n[W2(tk)−W2(tk−1)]−2bk=1∑n[W(tk)−W(tk−1)]2ここで
k=1∑n[W2(tk)−W2(tk−1)]k=1∑n[W(tk)−W(tk−1)]2=W2(tn)−W2(t0)=W2(t)−W2(0)=W2(t)=k=1∑nΔW2(tk−1)=k=1∑nσ2(tk−tk−1)=σ2tこれを代入すると
X(t)=X(0)+2bW2(t)−2bσ2tとなるため、矛盾が生じない。
伊藤の公式
X(t) が dX(t)=f(t,X(t))dt+g(t,X(t))dW(t) を満たす確率微分方程式の解であるとき、H(t,X(t)) の微分 dH(t,X(t)) は次のように表される。
dH=(∂t∂H+∂X∂Hf+21∂X2∂2Hg2σ2)dt+∂X∂HgdW
伊藤の公式の考察
H(t,X(t)) を普通に全微分すると
dH=∂t∂Hdt+∂X∂HdX=∂t∂Hdt+∂X∂H(fdt+gdW)=(∂t∂H+∂X∂Hf)dt+∂X∂HgdWとなり、これに 21∂X2∂2Hg2σ2dt を加えたものが伊藤の公式になる。
dH をテイラー展開すると
dH=∂t∂Hdt+∂X∂HdX+21∂t2∂2Hdt2+∂t∂X∂2HdtdX+21∂X2∂2HdX2+⋯=∂t∂Hdt+∂X∂H(fdt+gdW)+21∂t2∂2Hdt2+∂t∂X∂2Hdt(fdt+gdW)+21∂X2∂2H(fdt+gdW)2+⋯ここで
dt2dtdWdW2=0=±σdtdt=±σdt3/2=0=±σ2dtを用いると
dH=∂t∂Hdt+∂X∂H(fdt+gdW)+21∂X2∂2Hg2σ2dt=(∂t∂H+∂X∂Hf+21∂X2∂2Hg2σ2)dt+∂X∂HgdW
X(t)=W(t) のとき、H(t,X(t))=X2(t) とすると、伊藤の公式より
dH=(∂t∂H+∂X∂Hf+21∂x2∂2Hg2σ2)dt+∂X∂HgdW=σ2dt+2XdW=σ2dt+2WdW両辺を積分すると
∫0tdH=∫0tσ2dt+2∫0tWdW=σ2t+2∫0tW2dWまた
∫0tdH=H(t)−H(0)=W2(t)−W2(0)=W2(t)であることから
σ2t+2∫0tW2dW∫0tW2dW=W2(t)=21(W2(t)−σ2t)となる。