前提知識
ヨーロピアン・コール・オプション
とある金融商品を特定の時点で購入する権利を ヨーロピアン・コール・オプション (European call option) という。
ヨーロピアン・コール・オプションは、とある金融商品を特定の時点で
(ヨーロピアン) 購入する (コール) 権利 (オプション) という意味に対応している。
用語 | 意味 |
---|
アメリカン | 特定の期間内で |
ヨーロピアン | 特定の時点で |
コール | 購入する |
プット | 売却する |
ヨーロピアンタイプはアメリカンタイプに比べ、特定の時点 (満期) でしか権利を行使できない分、オプションの価格が安くなる。
一物一価の法則
経済学における概念で「完全競争市場において同一の商品は同じ価格で取引される」という法則を 一物一価の法則 (law of one price) という。
金融においても同様に、「同一のリスク・リターン特性を持つ商品は同じ価格で取引される」という一物一価の法則が成り立つ。
完全競争市場 (perfect competition market) とは、次のような条件を満たす市場を指す。
- 多数の売り手と買い手が存在する
- 市場への参入・退出が自由である
- 市場で取引される財やサービスは同質である
- 買い手と売り手が財やサービスに関する情報をすべて共有している (情報の対称性)
完全競争市場における一物一価の法則の証明 (注: 厳密でない)
商品 A と商品 B は同一の商品であるとする。
PAPBC=商品Aの価格=商品Bの価格=市場間の取引コスト (輸送費など)
- もし PA>PB+C とすると、A を売り、B を買うことで C の利益が得られる。(これを 裁定取引 (arbitrage) という)
これにより商品 A の価格が下がり、商品 B の価格が上がる。
- 逆に PA<PB−C とすると、A を買い、B を売ることで C の利益が得られる。
これにより商品 A の価格が上がり、商品 B の価格が下がる。
- 均衡状態では ∣PA−PB∣≤C となる。
以上より ∣PA−PB∣≤C に収束することが分かる。
更に取引コストが無視できるほど小さい場合、つまり C≈0 のとき、PA≈PB となる。
複製ポートフォリオ
任意のヨーロピアン・コール・オプションは、将来の損得が一致するようなポートフォリオを株式と債券を組み合わせることによって構築できる。
これを 複製ポートフォリオ (replicating portfolio) という。
また、一物一価の法則により、ヨーロピアン・コール・オプションの価格はその複製ポートフォリオの価格と等しくなることから、複製ポートフォリオの価格を計算することでヨーロピアン・コール・オプションの価格を求めることができる。
以下の方法で複製ポートフォリオを構築するものとする。
- 時刻 t において、株式と債券をそれぞれ p(t),q(t) だけ保有しているとする
- 時刻が t+Δt になり、株式と債券の価格がそれぞれ S(t+Δt),B(t+Δt) に変化したとする
- 複製ポートフォリオのリスク・リターン特性がヨーロピアン・コール・オプションと一致するように p(t+Δt),q(t+Δt) を調整する。
ただし、この調整の前後で、株式と債券の保有額の合計は変化しないものとする。
このような取引の性質を 自己資金充足 (self-financing) という。
自己資金充足
自己資金充足とは、取引の際に自己資金を投入することなく、ポートフォリオの保有比率を変更することができる取引の性質を指す。
つまり、複製ポートフォリオの構築で、時刻 t+Δt における株式と債券の保有量 p(t+Δt),q(t+Δt) を調整する際には
ΔpS(t+Δt)+ΔqB(t+Δt)=0が成り立つ。
ブラック・ショールズ方程式の導出
求めたいヨーロピアン・コール・オプションの時刻 t における価格を C(t) とする。
また、時刻 t における株式と債権の価格をそれぞれ S(t),b(t) とし、次の確率微分方程式に従うとする。
dSdb=aSdt+bSdW=rbdt
一般的に国債のリスクは極めて小さいと考えられているため、国債の価格 b(t) は
W に依存しないと仮定している。
時刻 t において複製ポートフォリオに含まれる株式と債券の保有量をそれぞれ p(t),q(t) とすると、複製ポートフォリオの価格は
C(t)=p(t)S(t)+q(t)b(t)
と表せる。
両辺を微分すると
dC=dpS+pdS+dqb+qdb(1)
自己資金充足の性質から、dpS+dqb=0 を代入すると
dC=pdS+qdb
また
dSdb=aSdt+bSdW=rbdt
を代入すると
dC=p(aSdt+bSdW)+qrbdt=(apS+qrb)dt+bpSdW(2)
が導ける。
また、(1) に対して伊藤の公式を適用すると
dC=[∂t∂C+∂S∂CaS+21∂S2∂2Cb2S2σ2]dt+∂S∂CbSdW(3)
(2),(3) より dC の dt,dW の係数を比較すると
apS+qrbbS∂S∂C=∂t∂C+∂S∂CaS+21∂S2∂2Cb2σ2S2=bpS
が導ける。
p=∂S∂C,qb=C−pS=C−S∂S∂C を代入すると
∂t∂C+aS∂S∂C+21b2σ2S2∂S2∂2C∂t∂C+rS∂S∂C+21b2σ2S2∂S2∂2C=aS∂S∂C+r(C−S∂S∂C)=rC
となり、ブラック・ショールズ方程式が導かれる。
ブラック・ショールズの公式の導出 (不完全)
∂t∂C+rS∂S∂C+21b2σ2S2∂S2∂2C=rC
ここで S∂S∂ に注目すると
S∂S∂=S∂S∂=∂logS∂
となることから y=logS とおいてみると
S∂S∂S∂S∂CS2∂S2∂2C=ey=∂S∂y∂y∂=S1∂y∂=e−y∂y∂=eye−y∂y∂C=∂y∂C=e2y(e−y∂y∂)2C=ey∂y∂(e−y∂y∂C)=ey(−e−y∂y∂C+e−y∂y2∂2C)=∂y2∂2C−∂y∂C
より
∂t∂C+r∂y∂C+21b2σ2(∂y2∂2C−∂y∂C)=rC
ここで
uτx=erτC=T−t=bσy+(r−21b2σ2)τ
とおくと以下の熱方程式に帰着できる。
∂τ∂u=21∂x2∂2u
この熱方程式の解は
u(x,τ)=2π1∫−∞∞e−21x2ϕ(x)dx
であることが知られている。
これを逆変換すると
C(S,t)whered1d2N(x)=SN(d1)−Ke−r(T−t)N(d2)=bσT−tlog(KS)+(r+21b2σ2)(T−t)=bσT−tlog(KS)+(r−21b2σ2)(T−t)=2π1∫−∞xe−21x2dx
となり、ブラック・ショールズの公式が導かれる。